コンフリクトマネジメント研修の設計|意見の対立を扱う演習と観察のポイント
コンフリクトマネジメント研修を設計するなら、「対立を増やす」ことではなく、「意見の違いを言葉にし、人の問題にせず、決め方に合意して決める」ことを目標に置きましょう。演習には、個人で答えを出してからチームで一つの答えにまとめるコンセンサスゲームが向いています。参加者が実際に意見をぶつけ合う場面を、進行役が観察して介入できるからです。
この記事では、研修の目標を3つに絞る考え方、演習中に観察する言動のチェックリスト、進行役が介入する場面と声かけ、NASAゲームを使った演習の流れ、半日(3時間)の進行例を紹介します。対立への対処スタイル(5つの分類)そのものの解説は、コンフリクトマトリクスの解説記事に任せ、ここでは研修の設計に絞ります。
なお、観察項目・介入の声かけ・進行例は、この記事で提案する運営方法です。ゲームキットの標準マニュアルの内容ではありません。また、研修での演習を扱う設計であり、実際に職場で起きている紛争の仲裁や調停には対応していません。
コンフリクトマネジメント研修の目的は「対立を増やす」ことではない
「意見をぶつけ合えば成果が上がる」という前提で研修を設計すると、対立を煽るだけの場になりかねません。チーム内の対立と成果の関係を調べた研究では、対立の種類によって結果が分かれています。
de Wit、Greer、Jehn(2012)は、チーム内の対立を扱った116の実証研究(8,880チーム)をメタ分析しました。その要旨によると、人間関係の感情的な摩擦である「関係の対立」と、役割分担や進め方をめぐる「プロセスの対立」は、チームの成果と一貫して負の関係にありました。一方、仕事の内容や判断をめぐる意見の違いである「課題の対立」は、以前の研究で言われたほど強い負の関係は見られず、条件によって変わるという結果でした。課題の対立と関係の対立の結びつきが弱いチームや、成果を意思決定の質や財務業績で測った研究では、課題の対立は成果とより正の方向に関連していました。
研修の設計に引き直すと、次の2点になります。
- 意見の違い(課題の対立)は、それ自体を避ける必要はない。ただし、出せば成果が上がるとも言えない。
- 意見の違いが「あの人は分かっていない」という人の問題(関係の対立)に変わらないようにすること、決め方(プロセス)でもめないようにすることが、研修で扱う中心になる。
この記事での対立の種類の説明は、上記メタ分析の要旨に基づいています。研修の目標・観察項目・介入例は、この知見を踏まえた当サイトの提案です。
研修の目標は3つに絞る
研修の目標は、参加者の行動として観察できる形に絞ります。次の3つを提案します。
目標1. 意見の違いを言葉にできる
「私は◯◯が1位だと思う。理由は△△だから」と、結論と根拠をセットで言えることです。違いが言葉にならない職場では、対立が表に出る前に、不満として溜まります。
目標2. 意見の違いを人の問題にしない
「その案には賛成できない」が「あなたはいつもそうだ」に変わらないことです。課題の対立を関係の対立にしないための、いちばん具体的な行動です。
目標3. 決め方に合意してから決める
多数決にするのか、全員が納得するまで話すのか、時間が来たら誰が決めるのか。決め方を先に合意しておくと、結論に不満が残っても、進め方への不信にはなりにくくなります。合意形成では「何に合意するか」が重要で、その考え方はコンセンサスゲームで伝えている合意形成のポイントで詳しく説明しています。
3つすべてを1回の研修で扱っても構いませんが、職場の課題に合わせて重点を一つ決めると、観察と振り返りが具体的になります。
演習中に観察する言動のチェックリスト
演習中、進行役や観察者が見る言動を表にまとめました。チームごとに観察者を1名置ける場合は、この表を印刷して手元に持ってもらいます。進行役が一人で複数チームを見る場合は、項目を2〜3に絞ります。
| 観察項目 | 見られる言動の例 | 対応する目標 |
|---|---|---|
| 結論と根拠がセットで出ているか | 「◯◯が1位。理由は…」と言えているか。賛成・反対だけで理由がない発言が続いていないか | 目標1 |
| 発言していない人がいないか | 2〜3分以上、発言のない人がいないか。頷くだけで自分の順位を言っていない人がいないか | 目標1 |
| 違いの理由を聞いているか | 「なぜそう思う?」と相手の根拠を聞く人がいるか。反論だけで終わっていないか | 目標1・2 |
| 人ではなく内容を扱っているか | 「それは違う」が「あなたは分かっていない」に変わっていないか。声の調子や表情が変わった場面はないか | 目標2 |
| 決め方を決めているか | 時間配分、多数決か全員納得か、最終決定者を話し合っているか。話し合わずに挙手に入っていないか | 目標3 |
| 根拠を聞いて意見を変えた人がいるか | 相手の根拠を聞いて順位を変えた場面があるか。逆に、押し切られて黙った場面はないか | 目標1・2 |
| 残り時間を管理する人がいるか | 「あと10分」と口にする人がいるか。時間切れ直前に慌てて決めていないか | 目標3 |
観察のメモは「誰が良い・悪い」ではなく、「いつ、どんな言動があったか」で残します。振り返りで本人に伝えるときも、評価ではなく場面として返すと、受け取りやすくなります。
進行役が介入する場面と声かけの例
介入は、しすぎると参加者が自分で対立を扱う経験を奪い、しなさすぎると関係の対立に進んでしまいます。介入する場面と目安を、事前に決めておきます。
| 場面 | 介入の目安 | 声かけの例 |
|---|---|---|
| 沈黙が続く・特定の人が話していない | 2〜3分発言のない人がいたら | 「◯◯さんは、どのアイテムの順位が気になっていますか」 |
| 声の大きい人の案で決まりかけている | 他の人が理由を聞かれないまま同意し始めたら | 「別の順位を出していた人の理由を、一度聞いてみましょう」 |
| 多数決に逃げる | 話し合いをせずに挙手に入ったら | 「多数決にする前に、少数側の根拠を一つ聞きましょう」 |
| 人への言及に変わる | 「いつも」「分かっていない」のような言葉が出たらすぐ | 「今はアイテムの話に戻しましょう。どの根拠が食い違っていますか」 |
| 時間切れが近いのに決まらない | 残り5分で半分以上が未決なら | 「残り5分です。先に決め方を決めてください」 |
「人への言及」だけは、他の場面と違ってすぐに介入します。関係の対立に変わってからでは、演習の中で元に戻すのが難しいためです。それ以外の場面は、少し待って参加者自身が気づくかを見てから声をかけます。
進行役の介入は、演習の中での話です。研修後に職場で起きている対立に進行役が入るかどうかは、研修とは別に判断してください。
演習の例:NASAゲームで意見の対立と合意形成を体験する

意見の対立を扱う演習には、「個人で答えを出す→チームで一つの答えにまとめる→正解と比べて振り返る」という流れのコンセンサスゲームが向いています。参加者は必ず自分の答えを持った状態で話し合いに入るため、意見の違いが自然に生まれ、上の観察項目を実際の言動で見ることができます。
代表的なゲームがNASAゲームです。不時着した宇宙船に残されたアイテムに優先順位をつける課題で、商品ページに掲載している標準的な進行は次のとおりです。
| 段階 | 時間 | 研修で観察できること |
|---|---|---|
| ルール説明 | 10分 | — |
| 個人ワーク(一人でアイテムに優先順位をつける) | 10分 | 自分の答えと根拠を持つ(目標1の準備) |
| グループワーク(チームで話し合い、チームとしての回答を出す) | 30分 | 観察チェックリストの全項目。介入もこの段階 |
| 結果発表(NASAの回答と照らし合わせる) | 10分 | 個人の答えとチームの答えのどちらが正解に近かったか |
| 振り返り | 30分 | 決め方・根拠の聞き方・人の問題になりかけた場面 |
対象人数は4〜100名以上、1チーム4〜6名が推奨です。ゲームキットをレンタルして社内の講師が進行する方法と、講師派遣で実施する方法があります。詳しい実施条件は商品ページをご覧ください。
研修で使うときのポイントは、結果発表の「どのチームが正解に近かったか」で終わらせないことです。個人の答えよりチームの答えが正解から遠ざかったチームでは、誰かの根拠が聞かれないまま押し切られた場面がなかったか、多数決で少数意見を切っていなかったかを、観察メモをもとに振り返ります。
半日(3時間)で実施する研修の進行例
NASAゲームを演習に使った、半日(3時間)の進行例です。時間配分はこの記事の提案で、休憩や人数によって調整してください。
| 時間 | 内容 | 進行役の動き |
|---|---|---|
| 0:00〜0:20 | 導入・講義: 対立の種類と研修の目標3つ | 職場で起きやすい対立の例を出し、目標の重点を伝える |
| 0:20〜0:30 | 演習のルール説明 | 観察者がいる場合はチェックリストを配る |
| 0:30〜0:40 | 個人ワーク | 相談しないよう見守る |
| 0:40〜1:10 | グループワーク | 観察と介入。チームを巡回し、場面と時刻をメモ |
| 1:10〜1:20 | 休憩 | 観察メモを整理 |
| 1:20〜1:30 | 結果発表 | 個人とチームの差を各チームに見せる |
| 1:30〜2:10 | 振り返り(チーム内→全体) | 観察した場面を評価ではなく事実として返す |
| 2:10〜2:40 | 職場で試す行動を決める | 一人一つ、次の会議で試す行動を書く |
| 2:40〜3:00 | まとめ・質疑 | 3つの目標に戻って締める |
1日研修にする場合は、午前に対処スタイルの理解と演習、午後に自社の実際の会議や判断場面を題材にしたケース検討を置くと、演習の学びを職場の文脈に引き寄せられます。
振り返りで職場につなげる問い
振り返りは、ゲームの勝敗ではなく、対立をどう扱ったかに向けます。問いの例です。
1. 意見の違いが出た場面を思い出す
「自分と違う順位を出した人は誰でしたか。その人の根拠を聞きましたか」「聞いたうえで意見を変えた場面はありましたか」。
2. 人の問題になりかけた場面を扱う
「話し合いの途中で、内容ではなく相手の態度が気になった瞬間はありましたか」「そのとき、誰かが内容に戻す言葉を言いましたか」。
3. 決め方を振り返る
「チームの答えはどうやって決まりましたか。多数決、声の大きい人、時間切れ、全員納得のどれでしたか」「職場の会議では、どの決め方が多いですか」。
4. 職場で試す行動を一つ決める
「意見の違いを言う」で終わらせず、「次の定例会議では、反対意見が出たら理由を一つ聞いてから次に進む」のように、場面と行動を具体的にします。
よくある質問
Q. 対立が表に出ていない職場でも、この研修は必要ですか?
意見の違いが言葉にならない状態も、この研修の対象です。目標1「意見の違いを言葉にできる」に重点を置き、演習で全員が自分の順位と根拠を言う場面を作ります。
Q. 対立への対処スタイル(5つの分類)の診断は入れるべきですか?
自分の傾向を知る導入として、演習の前に短く扱うと、振り返りで「自分はどのスタイルで動いたか」を言葉にしやすくなります。5つのスタイルの内容はコンフリクトマトリクスの解説記事をご覧ください。
Q. オンラインでも実施できますか?
NASAゲームにはオンライン版があります。進行役はブレイクアウトルームを巡回して観察します。対面より表情が読みにくいため、チャットへの書き込みや、発言のない人の有無を観察項目に加えます。
Q. 実際に職場で起きている対立の解決に、この設計を使えますか?
この記事の観察項目や介入は、研修の演習の中で使うものです。実際の紛争の仲裁や調停には対応していません。当事者間の問題が進んでいる場合は、人事や外部の専門家による対応を別途検討してください。
Q. 社内の担当者が進行役を務められますか?
ゲームキットには運営マニュアルが付属し、社内講師での実施が可能です。観察と介入に集中するため、ルール説明や時間管理を別の担当者と分けると進めやすくなります。
演習の資料請求・ご相談
コンフリクトマネジメント研修を自社で設計する場合、まず「目標の重点」「観察項目」「介入の目安」の3点を決め、それに合う演習を選びます。
チームビルディングゲーム.comでは、NASAゲームをはじめとするコンセンサスゲームの実施内容と提供方法をご案内しています。資料ダウンロードでゲームの内容を確認し、参加人数・会場・全体時間・社内で進行するかを整理したうえで、お問い合わせからご相談ください。